AYA世代の乳がんについて
乳がん発症年齢
AYA世代のがんの内訳
AYA世代の乳がんの特徴
- 市町村が行う対策型の乳がん検診は一般的には40歳以上が対象であるため、AYA世代は対象外となる
- AYA世代では、腫瘤自覚や乳頭分泌などの症状がでて、初めて見つかることが多いため、進行している場合もある
- がんの性質としてホルモン受容体が陰性のがんが多い傾向にある→スピードが速い
- 結婚、妊娠・出産、子育てなど人生において重要なライフイベントと重なる
- 同じ年齢であっても家庭環境、就学・就業状況、経済状況など人生設計はさまざまであるため個人の状況にあった多様な対応が必要となる
- 遺伝性腫瘍の可能性も
妊孕性温存
- 乳がん治療では多くの患者さんが薬物治療を行う
-
薬物治療
- ホルモン剤…卵巣への影響は少ないが、催奇形性あり
- 抗がん剤…卵巣、卵子への影響あり
- 抗HER2薬…胎盤は通過しないと言われているが、妊娠に関する安全性はしめされていない
薬物療法を行う前に妊孕性温存の検討が必要
- 可能であれば、薬物治療開始前に卵子を採取
-
薬物治療終了後に妊娠を検討
治療期間 終了後~妊娠可能となる期間 ホルモン剤 5年 2ヶ月 抗がん剤 6ヶ月 6ヶ月 抗HER2薬 1年 7ヶ月
一番大事なのはがん治療を優先させること
リスクに応じて主治医と要相談
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群 (HBOC: Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome)
家族性乳がんと単一遺伝子変異による遺伝性乳がん
乳がん罹患者の、年齢別にみた遺伝子の病的変異保有率
若くに乳がんになった人ほど、遺伝子変異を保有している確率が高い
Momozawa Y, et al. Nature Communications (2018)
- HBOCとは、
生殖細胞系列において BRCA1および BRCA2 遺伝子の病的変異が同定されていることにより確定 - BRCA遺伝学的検査:2020年4月から保険収載され一定の条件下で検査が可能となった
検査対象となる方
-
乳がんと診断された方の中で
- 45歳以下で乳がんと診断された方
- 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんと診断された方
- 複数回乳がんと診断された方
- 第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がんの発症者がいる方
- 血縁関係にBRCA1またはBRCA2 陽性と診断された人がいる方
- 男性乳がんの方
- 卵巣がん、卵管がんあるいは腹膜がんを発症された方
- PARP阻害剤に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす方
当院でのBRCA遺伝学的検査のながれ
HBOCは常染色体優性遺伝 : 1/2の確率で子へ遺伝
HBOCの年齢別 乳がん・卵巣がんの発症リスク
Antoniou A, et al. Am J Hum Genet (2003)
定期検査とご家族への対応
定期検査
- 18歳からbreast awareness
- 25歳から6ヶ月~年に1回 問診・視触診
- 25~29歳 年1回 乳房造影MRI
- 30歳~75歳 年1回 マンモグラフィ, 乳房造影MRI
個別にMRIの適応、エコー併用も考慮してよいのでは?
- 日本人における若年者に対するエコー併用の有効性
- MRI造影剤によるリスク 特に腎機能低下など
ご家族への対応
- 必要に応じて遺伝カウンセリングを依頼
- 発症者であれば保険適応のBRCA遺伝学的検査
- 未発症者ではシングルサイトの遺伝学的検査(自費)
- HBOCの診断となれば左記定期検査に準じて
- 検査を受けられない場合は個別に検診を検討
リスク低減手術(予防切除)
-
BRCA遺伝学的検査でBRCA1もしくはBRCA2 陽性乳がん、卵巣がんの方が対象
- リスク低減乳房切除術(RRM)
現在徳島県内で行える施設はなく、徳島大学で準備中 - リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)
徳島大学病院で実施可能
- リスク低減乳房切除術(RRM)
ブレスト・アウェアネス
乳房を意識する生活習慣
- ① 乳房の状態を知る(見て、触って、感じる:乳房チェック)
- ② 早く乳房の変化(しこり、皮膚の凹みや血性乳頭分泌など)に気づく
- ③ 乳房の変化に気がついたら、すぐ医師へ相談する
- ④ 40歳になったら乳がん検診を受ける
- i. 検診を定期的に受診していても、進行が早く急速に大きくなる乳がんがあるため、早期に自覚して医師に相談することで早期診断を可能とする
- ii. 高濃度乳房症例に対してはマンモグラフィ検診の感度は低くなるため、ブレスト・アウェアネスの実践が早期診断につながる
- iii. 現在、対策型検診は40歳以上のみで、若年性乳がんの検診については定まったものはない。ブレスト・アウェアネスは一つの対応策となる
(参考文献:植松孝悦,乳癌の臨床:2020,35,4,273-278)
AYA世代検診
- 一般的な市町村の検診はない
- 18歳からブレスト・アウェアネス
- HBOCの有無や、血縁者に乳癌罹患者がいるかどうかなどリスクに応じて乳房検査(エコーやマンモグラフィ、MRI)を検討
- 最も若くして発症した方の年齢より10年若い時期より開始すべきと言われている(30歳以降、MRIは25歳以降)
AYA世代における検診としての検査は個々で必要性が異なります。
過剰に検査を受けることは被爆などリスクも伴うので、必要性について医師と相談してください
(NCCNガイドライン2019年 乳がん検診と診断より一部引用)
妊娠中のがん
妊娠中のがん(妊娠期がん)
妊娠期がんの割合
海外の報告では1000~1500妊婦に1人の割合でがんに罹患しているといわれている
がんの種類 | 妊婦10万人に対する頻度(人) |
---|---|
乳癌 | 10~35 |
子宮頸癌 | 10~12 |
血液がん(悪性リンパ腫・白血病) | 13~16 |
甲状腺癌 | 2~14 |
悪性黒色腫 | 2.8~8.7 |
大腸癌 | 2.8~7.7 |
卵巣癌 | 0.6~5.2 |
- 妊娠期関連がん(pregnancy-associated cancer ; PCA)
妊娠中に見つかったがん、あるいは出産から1年以内に見つかったがん - 妊娠期がん(cancer-during pregnancy)
妊娠中に診断されたがん
Best Pract Res Clin Obstet Gynecol 2016
妊娠中のがん治療の原則
妊娠期癌診療ガイドブック 南山堂2018
妊娠週数別にみた治療の流れ
妊娠期癌診療ガイドブック 南山堂2018
妊娠を継続するかどうか
妊娠中絶が絶対的に必要になる状況は、母胎の状態が不良で妊娠継続しながら悪性腫瘍の治療を継続することが困難である場合、母胎の生命予後が不良であると考えられる場合、治療により胎児に大きな影響をあたえることが予測される場合である。
晩婚化や妊娠・出産の高齢化により、悪性腫瘍を認めた妊娠が初回で、今回の妊娠を中絶すると年齢に伴う卵巣機能の低下が考えられ、次回妊娠が望めない可能性が高い場合があることも考慮し、本人・家族と相談していく必要がある。
日本では妊娠中絶ができる時期が限られているため(妊娠22週未満)、特に妊娠中期に悪性腫瘍と診断された場合、説明内容や時期に注意する必要がある。
妊娠期乳がん
妊娠期乳癌の治療(外科治療)
- 妊娠初期(14週未満)の外科治療は、麻酔薬自体は先天性奇形と無関係とされているにもかかわらず流産の割合が高くなると報告されている
- 妊娠中期(14週1日~27週6日)の外科治療については安全性がほぼ確立されており、子宮の大きさもさほど大きくなく、外科手術の妨げにならない
- 外科的治療が患者にとって最適な診断または治療とされる場合は妊娠中であっても積極的に行うべきであり、よほどの理由がない限りは妊娠中だからといって手術のタイミングを遅らせるべきではない
- 妊娠後期での外科手術は、上大静脈の圧排や子宮の増大による外科手技のやりにくさ、分娩誘発のリスクや合併症のリスクが高まるため、待てるのであれば産後まで手術を遅らせるべきである
妊娠期乳癌の治療(抗がん剤治療)
- 妊娠初期で化学療法を投与した場合は、胎児の奇形が14%であったという報告があり、この時期の薬物投与は避けなければならない。
- 妊娠中期以降に抗癌剤治療を受けた母親から生まれた児のほとんどが長期的な合併症を有さないことが明らかとなってきた。
- 妊娠中期または後期の妊娠期乳癌患者に対しては、非妊娠期乳癌患者と同様の治療計画を立てることが望ましく、必要であれば妊娠中の抗癌剤治療も行う。
妊娠中の乳癌治療が分娩および胎児に与える影響
分娩への影響
妊娠中に抗癌剤治療を受けた母体では、早期破水や早産の割合が高くなる傾向がある
早期破水は3%(健常母体は0%)、早産は6%(健常母体は2%)という報告もある。
胎児への影響
妊娠中期以降の抗癌剤治療により奇形率が有意に上がるとはされておらず、身長・体重・頭径に関しても健康な母親から生まれた児と差がないと報告されている。
これまでアンスラサイクリン投与による胎児への心毒性が懸念されていたが、近年は胎児のフォローアップデータが蓄積され、観察期間1年半~3年の報告によると明らかな心機能低下は報告されていない。
認知機能に関しては、在胎期に抗癌剤暴露を受けたか否かよりも、早産との関連性のほうが高く、可能な限り正期産が望ましい。
妊孕性への影響(第二子を希望する場合)
- 病状の理解(補助療法の必要性、転移再発のリスク)
- がん治療が生殖機能に与える影響として、妊孕性の低下(消失)が予想される。
- 生殖年齢の患者に対し、がん治療を行う際には妊孕性に配慮した診療が求められる。
- がん治療による不妊のリスクはがん治療の内容によって異なり、妊孕性温存方法としては生殖補助医療を用いることが多い。
- 女性の場合は胚凍結保存、卵子凍結保存、卵巣凍結保存などが代表である。
- 実際に妊孕性温存をする際には、生殖医療専門医からの正しい情報提供と患者本人および家族も含めた意思決定が重要である。
治療計画(例)
子育て支援
- Hope Tree
-
当院でも
- がん診療連携センター
- 乳がん認定看護師
- ソーシャルワーカー
就労支援 (患者支援センター)
(当院使用:治療と仕事の両立支援のための説明書より)